そらまめ日記

大学生・そらまめの日常メモ

「謎の人物」になれなくてごめんなさい

私は高校生の時に謎の人物に出会ったことがあります。それは高校に入学したての頃。休み時間に一度席を外し戻ってくると、教室には誰もいませんでした。よくよく思い返すと次の授業は家庭科室。クラスメイトたちは全員移動した後でした。授業の用意をしながらも焦る私。なぜなら、家庭科室の場所を知らなかったからです。


キーンコーンカーンコーン。始業のチャイムが鳴り、私は新学期早々に遅刻が確定してしまいました。早く移動しなければ、とおぼろげな記憶を頼りに校内を一人でさまよいます。けれど、家庭科室は何度探しても見当たりません。授業が始まっているので廊下には生徒も先生もいません。怒られるのを覚悟で職員室に聞きに行こうかと思った時のことです。


私は謎の人物に会いました。彼は制服を着ていたので生徒の一人でしょうが、特に急いでいる様子ではありません。もしかしたら顔を覚えていないだけで家庭科室に向かうクラスメイトかもしれない。そう考えて私は彼に声をかけました。「すみません、家庭科室はどこですか?」すると、彼はやはりゆっくりした歩調で私を家庭科室の前まで案内してくれます。分かりづらい場所にあるよね、と言いながら。「ありがとうございます」私がお礼を言うと彼は去っていきました。私は彼のおかげで無事に家庭科室にたどり着いたのですが、「いったい彼は何者なのか」という疑問で頭の中はいっぱいでした。


「彼は何者なのか」
①彼はこの学校の生徒である
②この時、すべてのクラスで既に授業は始まっていた
→彼はクラスメイトか、授業に遅刻している、もしくは授業をさぼっている
しかし、
③彼は家庭科室には入らなかった→クラスメイトの一人ではない
④彼は急ぐ様子もなく家庭科室まで一緒に来てくれた→遅刻ではない
⑤先生に見つかるかもしれないのに家庭科室の前まで案内してくれた→たぶんさぼりでもない
それなら、彼はいったい何者なんでしょう?


その後の高校生活で彼に会うことはなく、謎は謎のままで私は卒業を迎えました。何度か高校時代の友人にこの話をしたことがあるのですが、納得のいく答えが出ないまま今に至ります。


どうしてこんな話を思い出したかというと、つい最近私が教室を教える立場になったからです。ある授業の第一回目に教室を訪れると教室変更のお知らせが掲示されていました。この教室とは別の建物で広い講義室です。そして、私が来る前から困った顔で立っている男子学生が一人。ああ、新入生だから新しい教室の位置が分からないのかな、と私は思いました。けれど、私も普段使っている建物ではないので新しい教室の場所はよく分かりません。とりあえず彼には声をかけず、こっちかなと検討をつけて進むとどうやら正解のようでした。振り返ると彼はまだ困っている様子。「新しい教室はこっちですよ」と言うと、分かりました、と返事がありました。実はこの間に始業のチャイムが鳴っていたので、私は急いで新しい教室に向かいました。


新しい教室に着くと先生はまだ雑談中。人数が増えちゃって教室変更したんだよね、とのこと。彼は私の後をついてすぐに教室にやって来るだろう、と思って待つこと1分。…2分……5分………。え?大丈夫?と思った時に彼は教室にやって来ました。彼は高校時代の私のように学内をさまよってしまったのでしょうか。大教室にまぎれた彼に事情を聞くことはできませんが、私は申し訳なさを覚えました。


「謎の人物」になれなくてごめんなさい。